アフリカの開発計画と地域社会に関する研究・調査は厚みを持たず、理論研究も確立していない。しかし、2008年のアフリカ会議(TICAD)や洞爺湖G8サミットの開催にともなう先進国からの援助額倍増の動きに対して、一刻も早い研究の着手が必要となる。研究者は、これまでの調査地(ケニア共和国中央部)でのフィールドワークを継続すると共に、個別実証的な議論を応用し、幅広い視野のもとで本研究全体を枠付ける研究を実施した。 具体的に平成20年度は、以下の3つの課題を遂行した。(1) ケニア共和国ケレニャガ県およびナクル県でのフィールドワーク(2008年8月〜9月実施)。とくに、初めて調査したナクル県では、2007年末以来の「民族紛争」の後遺症を目の当たりにすると共に、国際援助と地域住民の関わりについて新たな知見を得た。(2) 上記のデータに厚みを持たせる作業として、2008年3月に実施したイギリスでのケニア植民地時代の資料を整理し、データ化した。さらに、(3) 日本の援助機関における資料収集を通じて、開発と文化をめぐる研究に深みをもたせた。これら3つの視点は、定点観測を続けるための課題としての(1)、さらに比較研究のための課題としての(2)を踏まえつつ、課題(3)において、改めて日本国内の援助機関における調査を実施することで、議論の幅を広めることを目指した。現代的な課題である開発援助とアフリカ社会の問題は、当該社会の人類学的調査のみならず、現地社会、援助団体、国際世論など多様なアクターへの視角が必要となる。
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