今年度は、中世後期に創出された一般的訴権が、訴訟手続の諸アクターによる具体的な利害得失の考慮の下個別的訴権と使い分けられていたことの一例として、「封主による封臣からの封の取戻のための訴え」に関連する一般的訴権と個別的訴権の関係を検討した。封建法は、封という財産に係る法的問題を扱うがゆえに、ローマ法上の訴権と、中世後期に新たに創出された封建法上の訴権とが競合しうる領域であり、同時にローマ法・封建法双方の内部において一般的訴権と個別的訴権が案出されていた。 14世紀初頭の「訴訟法書」の検討によれば、(1)ローマ法上の個別的訴権は、訴訟戦略的に見て有効性に乏しく、ローマ法上の一般的訴権または封建法上の訴権での訴えが推奨されていた。ローマ法上の個別的訴権は、「封についての法的関係をローマ法上のdominium概念で把握する」という理論的要請に応えるものに留まり、訴訟実務に対応する存在ではなかった。(2)中世学識法における新たな訴権の創出は、従来「訴権の形骸化=権利中心の近代法への歩み」の兆表として理解されてきたが、封建法上の訴権と(それに対応する)ローマ法上の訴権の両者は訴訟手続上の具体的問題についての得失を当事者が判断した上で選択的に用いられていた。新たな訴権の創出は「訴権の個別性」を失わせるものではなかったことになる。 以上の内容についての研究ノート、並びに関連する書評については平成19年度中の公表が決定している。 上記の検討のために、中世学識法学・封建法についての関連する研究文献を収集・整理した。また国内旅費を用いて東京大学・日本大学での文献収集、「ローマ法研究会」での意見交換を行い、外国旅費によりドイツ(マックス・プランク法史研究所)での文献調査・収集を行った。
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