今年度は若手研究(B)2年間の最終年度として、(1)前年度の研究を継続すると共に(2)今後の研究に向けて問題点を整理し、(3)研究成果の取りまとめを行った。 (1)西洋中世法学において、紛争解決に際し訴権選択を通じて当事者間の法的関係が把握・創出されていたことの一例として、普通法(ローマ法・教会法)と個別法(地域法など)双方の規範が並存する封建関係の法的問題を検討した。原告は訴訟手続上のさまざまな戦略的配慮(証明の容易さなど)を念頭に、自らにより有利な個別法に基づく訴権の選択や、被告の自白を引き出す形での訴え方を推奨されていた。先行研究の見解とは異なり、個別法に基づく訴権は当事者間の法的関係の把握に重要な役割を果たしていた。今回主たる対象としたのはPierre Jacobi; Aurea Practica(1311)であるが、他の文献では、個別法に基づく訴権の利点を同様に強調するものと、普通法上の訴権のみを紹介するものが存在することが判明した。なお、史料収集のためドイツへの出張を行った。(2)紛争解決に際しての法的関係の把握・創出がかなり動的なものだったことはこれまでの検討である程度解明できたと考えるが、今後の問題として(1)当時実務上重要だった個別法に基づく訴え=法的関係の把握・創出がどのように行われていたのかを、個別法に基づく訴権の位置づけという視点からさらに一般化した形で解明すること、(2)法的関係の把握における職権の積極的関与、当事者と職権の関係を、通常手続だけでなく仲裁や簡略手続まで含め具体的事例に即して検討すること、に必要な文献の調査・整理を行った。(3)以上の研究の成果を下記業績として公表した。これは全3回の連載の1回目であり、残りの部分についても8割方完成しており、平成20年7月までには脱稿の予定である。
|