本年度は、夏季にイギリスのケンブリッジ大学にて、当初の予定より長く、6週間にわたる調査を行った。現在、その調査結果に基づき、イギリスの差止め、とりわけ日本の保全処分に対応する手続に関する研究に着手し、文献調査と論文執筆を進めている。残念ながら、本年度中には論文の形で公表することはできなかったが、来年度中には雑誌論文として公表したいと考えている。 イギリスでの調査を予定より長く行った分、アメリカでの調査は来年度以降に持ち越すこととなった。このため、アメリカに関する研究は、文献を中心としたものとなった。内容的には、法思想と連携した研究と、歴史的観点からの研究を深めつつある。現在は、文献の収集と研究課題の絞込みを行っている段階にある。 アメリカに関してはまた、陪審の研究を開始した。アメリカの訴訟法の研究では、従来から陪審の判断の正確性についての関心が高かった。しかし、本科学研究費の下での研究では、日本からアメリカ法を研究する視点として、陪審が裁判において政治的役割を果たすことが、アメリカ社会においてどのような意味を持つかを探求している。現段階では、ここ10年の陪審の関わる有名事件、とりわけ大陪審に注目が集まった事件に着目をして、分析を始めている。これも、長期的課題となるが、雑誌論文、または書籍という形で、公表を目指す。 日本の民事訴訟との関係では、若手の裁判官とともに、医療関係訴訟における裁判のあり方についての研究会に参加し、医療過誤訴訟における適正な事実認定などについて、研究を行った。この分野でも、本科学研究費の成果として公表することができなかったが、来年度中には雑誌論文として公表する予定である。
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