本年度は、秋季にイギリスにて1週間ほど、ケンブリッジ大学における資料収集や裁判所における調査を行った。昨年来の調査結果に基づき、イギリスの差止め、とりわけ日本の保全処分に対応する手続に関する研究に着手し、文献調査と論文執筆を進めている。3月に出席したシンポジウムでも大きな争点となっており、そこでの報告も織り込みつつ来年度中に公表したいと考えている。また、本年度までの予備調査の結果、来年度からは海外研究による調査活動の基盤が整ったので、その実現と成果の公表に向けて準備を進めてゆく。 アメリカに関する研究は、従来からの研究の積み重ねにより、成果を出しつつある。メディアの証言拒絶権に関し、アメリカの陪審制をめぐる思想や歴史的背景を交えた研究を行い、神戸大学の研究会で報告を行った。メディアの意義を問い、それに対置される裁判の公正さの重要性を改めて強調した報告は、従来の研究と一線を画するものと受け止められた。その成果は論文として公表したばかりである。今後とも、裁判の公正さをめぐる論争につき、法思想と連携した検討を進め、歴史的観点からの研究も深めてゆきたい。 日本の民事訴訟との関係では、昨年度に引き続き、若手の裁判官とともに、医療関係訴訟や損害賠償請求訴訟における裁判のあり方についての研究会に参加し、医療過誤訴訟における適正な事実認定などについて、研究を行った。研究の成果を論文として公表することもでき、すでに他の論文の中で引用されている。今後ともこの研究会の内外での研究を継続し、成果の公表を目指す。
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