平成18年度は、まず実体法的観点から、民商法典に規定されている抵当権に関する論文、判例、起草資料を収集して、タイにおける議論状況、判例の傾向、抵当制度の性格を把握することを目的にとした。そこで、タイを2度訪問し、大学図書館、国立図書館、裁判所等において、抵当権に関係するものを中心に、書籍、論文、判例を収集し、帰国後それら資料を読解、分析した。その際、重視したのは、歴史的な視点と判例の分析である。前者については、タイの抵当制度を把握するためには、歴史的な検討が重要であると考え、開国以後の近代化の過程で制定された各種の担保制度関係法令を収集するとともに、現行法である民商法典の立法過程を調査するために、起草資料が保管されている法制委員会に赴き、マイクロフィルムの形式で保管された第1次資料を閲覧し、必要部分の複写を入手した。後者については、これまでのわずかなタイ法研究においては、判例を視野に入れた研究がほとんど行われておらず、比較法研究としてあまりにも問題が大きいため、その問題点を念頭に置いて、関係判例を網羅的に収集することに傾注した。資料収集と並行して、実務における抵当制度についての意識を調査するために、裁判官、弁護士に対してインタビュー調査を行い、実務家の観点から見たタイの抵当権制度の実態と問題の把握に努めた。 そして、上記研究の成果の一部である、「タイにおける抵当目的物の諸問題」と題する論文が、平成19年6月に発行予定のアジア法学会誌『アジア法研究2007』に掲載される予定である。
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