最終年度である平成19年度は、手続法的観点を注進し、民事訴訟法典に規定されている担保権執行について、関係論文、判例等の情報を収集して、タイにおける議論状況、判例の動向、執行制度の性格を把握することを目的とした。そこで、タイを3度訪問し、大学図書館、国立図書館、裁判所等において、担保権執行に関係するものを中心に、判例、書籍等の文献資料の収集を行うとともに、研究者や実務家へのインタビューを行った。 担保権の執行については、そのことを規定する民事訴訟法典がアジア経済危機以後に改正されいるが、その改正は些末なものであり、本質的な改正には至っていないことを確認した。それは、弁護士や銀行担当者のインタビューにおいて、手続きの迅速化を果たす、さらなる改正要求が表明されることからも明らかである。特に、執行開始において裁判所判決を要求する現行手続きの問題性が指摘された。 他方、裁判所や土地局などの司法・行政の担当者へのインタビューからは、予算不足による人員不足が執行の遅延をもたらしていることが明らかになった。タイの場合には、執行開始において裁判所判決が要求されるので、人員不足による裁判遅延の影響は、直接、執行の遅延につながる。さらに、2000年に裁判の独立を果たすため、司法省と司法裁判所の分離が行われ、思わぬ影響を及ぼした。つまり、この分離により、執行実務を担当する司法省執行局と裁判所との間の密接な連携が消滅し、円滑な執行が行いにくくなったのである。執行過程における、裁判所の独立による、負の影響が明らかになった。 タイの抵当制度は、条文上の問題だけでなく、制度を運用する人員の側面で問題が深刻であることが明らかとなった。
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