平成20年度は、研究実施計画に従い、債権を形成する国家作用の分析に充てられた。民法典において債権は、物権とは異なり、それ自体の種別でなく発生原因によって分類されている。このため、民法上の発生原因に基づいて発生した債権を変更・消滅させる国家作用のみを取り上げるのでは、本研究の目的に照らして十分でないこととなる。そこで、本研究においては、そのような国家作用に加えて、民法上の債権の発生原因自体を形成する国家作用、債権を民法上の発生原因に基づかずに直接発生させ、これを変更・消滅させる国家作用をも取り上げることとした。 まず、年度の第1四半期を、契約を発生させる国家作用の列挙及び評価に充てたが、その数は予想外に多く、当該作業を終了したのは第2四半期に入ってからであった。特に、典型契約の性質決定と非典型契約の考察には慎重な検討を要したが、時間を費やした分、批判的検証に耐えうるものとなったと考えている。次いで、第2四半期の残りを、契約又は契約に基づく債権を変更・消滅させる国家作用の列挙及び評価に充てた。更に、第3四半期を、契約を除く民法上の発生原因に基づく債権を変更・消滅させる国家作用の列挙及び分析に充てた。最後に、第4四半期を、民法上の債権の発生原因に基づかない債権を形成する国家作用の列挙及び評価に充てた。 以上の分析は、明治から現在に至るわが国の立法実務に内在する論理をトータルに示した点において、いわば「暗黙知」とされてきた領域を可視化した、類例のない業績である。本研究は、判例と外国法に依拠することが多かった行政法学に豊富かつ新たな素材を提供すると同時に、将来の立法実務に指針を与えるものでもある。 なお、本研究においては、成果の速やかな公表にも意を払った。その結果、第1・第2四半期に得られた分析については、東北大学の紀要にいて年度内に発表することができた。
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