一年目である今年は、当初の予定どおり、ドイツの資料収集と分析に当てた。 19世紀プロイセンに関する歴史分析においては、未だ研究計画に記した仮説を確証するに至るほどの成果はあがらず、公表できる段階には至らなかったが、そこに示した仮説の正しさを確証し考察をまとめ公表することができるとなお考えている。すなわち、この時代の公的扶助法の変遷は、領邦が国民に移動の自由を認めると同時に、公的扶助事務を義務として課すことによる中央集権国家の編成が進むという領邦国家と地方自治体の綱引きの中で展開され、この磁場の中で事務の性格の理解と公的扶助を求める権利を認めるか否かの議論とが関連しながら進められていたその実際を、来年度には公表したい。 現在の状況の分析に関しては、当初の予定どおり資料収集と分析の他、地方自治の一般理論の分析を行い、翻訳という形でではあるが、一部を公表した。地方公共団体の活動・組織を分析するために重要な正統化の観念などについて得るところがあったと考えている。さらに、社会保障における自治の機能を確認し地方自治との比較を可能にするため、従来からの研究の延長という側面も持つが、医療保険における自治の研究を進め、この部分の成果も一部は翻訳として、一部は自らの論文として公表した。給付水準・給付にかかる費用の負担・効率的な給付のあり方を実現するための各アクターに対する制御といった諸要素が入り乱れる社会保障の中で、自治という要素は、どのような要素を決定する際に意味を持つのかについて得るところがあった、と考えている。
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