研究課題の最終年度となる本年度は、昨年度に残された課題を処理し本研究の一応のまとめを行うとともに、次年度以降の研究課題を明らかにする作業を行った。具体的には、次の三つの作業にまとめられる。まず危険調査権限の法的性格に関する研究である。実効的な危険防御に損害予測の基礎事実の収集が特に重要であることに鑑み、ドイツ警察法を素材に、危険調査権限の意義・内容・法的効果についての検討・分析を行った。我が国の現行法では危険調査権限が必ずしも明確に規定されていないケースも多く、危険防御措置と危険調査権限とを組み合わせた法的仕組みを整備する必要性について明らかにした。次に行政訴訟における要件事実論に関する研究である。本研究課題の主たる成果である「危険判断の論証モデル」が、裁判実務上においても有効であることを検証する作業である。創価大学法科大学院要件事実教育研究所主催「環境法要件事実研究会」に参加することを通じ、「危険判断の論証モデル」が、攻撃防御体系を示す要件事実論の観点からも有効であることを確認した(その成果は拙稿「行政訴訟における要件事実・覚書」伊藤滋夫編『環境法の要件事実』(日本評論社・2009)として公表された。)最後に具体的危険概念・危険配慮概念と抽象的危険概念の異同を解明する必要性について検討を行った。危険配慮は、具体的危険に至らない場合でも一定の警察措置を講ずるものとされてはいるものの、抽象的危険との違いについては必ずしも明らかにされてはいない。伝統的な危険防御の法システムと現代的な危険配慮の法システムとの連続性あるいは緊張関係をより鮮明に明らかにするためには、当概念の解明を含めたさらなる検討が必要であることを確認した(次年度以降の研究課題である)。
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