公権力主体たる行政が国民の任意性を排除して、権力的行為によって公共的価値を実現すべきという伝統的なガバメントモデルの変容について、わが国の展開を検討することが今年度の研究内容であった。私人が行政的権限を行使する場合において、第三者国民の権利侵害または第三者国民からの政治的主権の行使の局面において、どのような行政法的諸問題が生成しているのかについて、国家賠償および情報公開のそれぞれの課題を整理したことが、今年度の研究実績であった。 まず、国家賠償については、社会福祉法人の職員による加害行為に関する賠償責任主体が問題となった最判平成19年1月25日(暁学園事件)を分析した。この事件の訴訟代理人を招いて研究会を開催するとともに、分析結果を法学セミナー増刊『速報判例解説第1号』に掲載した。 次に、出資法人や指定管理者などの私人の保有する情報公開法制について検討した。私人が情報公開の実施機関となることのメリットとデメリットを整理しつつ、一長一短があるものの、行政機関が情報公開の実施機関となる責任を負うべきであって、私人に対して情報提供を命ずる型が現時点では標準的なものではないか、との結論に至った。この検討結果は、『名古屋大学法政論集』の「福家俊朗教授退職記念号」に掲載される予定である。
|