平成19年度においては、本研究課題に関しては、以下の研究成果をあげることがてきた。 1.理論研究としては、裁判所が政府の意図・目的に着目した司法審査を行うことを正当化する理論の分析・検討を行った。そして、この観点からはいわゆるプロセス理論に改めて注目すべきであると考えるに至り、ジョン・ハート・イリィのプロセス理論を再検討・再評価を行った論文を執筆・公表した。この論文で示したプロセス理論の解釈は、ある一定の民主主義プロセスを所与の前提としてそのプロセスが政治によって侵害されることから裁判所が保護することを弁証する理論と言うよりも、司法審査を全体としての民主主義プロセスの中で捉えて、その全体としての民主主義プロセスがよりよく機能するためには司法審査はいかにあるべきかという観点から裁判所の役割を考察しようとするものである。プロセス理論はこれまでも活発に研究されてきたものであるが、本研究は従来の理解とは少し異なる光をこの理論に当てることができたのではないかと考えており、このように捉え直されたプロセス理論は、現在なお魅力的であると言うだけではなく、他の司法審査理論を理解する場合の座標軸としての意義を持ち、今後それらの理論の分析を進める上で重要な意義を持つように思われる。また、どのような違憲審査基準が望ましいか、裁判所の救済はいかにあるべきかを考えるに当たっても、一つの指針を与えるのではないかと考えられる。 2.アメリカ判例研究としては、違憲審査基準について、なぜその基準を用いるべきかについての研究を継続して進めた。そのうち「明白かつ現在の危険」という違憲審査基準について、簡単にではあるが、執筆した。公表は次年度になる予定である。
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