本研究は、2001年の同時多発テロ以降、急速に厳格化するアメリカ合衆国の出入国管理法制に着目し、そこに存する二つの重要な憲法学上の課題(「外国人のデュープロセスの保障範囲と司法審査の可能性」と「出入国管理行政の透明性」)につき、相互の関連性を重視しながら考察することを通し、憲法学上の評価を行うことを目的としている。平成18年度は、前者の課題を中心に、とくに出入国管理制度及び外国人の権利に関する問題に焦点を当て、以下の調査研究を実施した。 第一に、出入国管理制度に関するこれまでの調査・分析を踏まえ、最新の法令及び各種制度を確認した上で、テロ対策に重点を置きつつ、制度の分析を行った。その結果、制度全般の厳格化が確認されたほか、国際社会に対して自国と同程度の法整備を求める傾向が確認された。 第二に、政府の拘束下に置かれた外国人に保障されるデュープロセスに焦点を当て、同問題に関連する分野における近年の法制度の改正状況を調査した。その結果、退去強制手続に伴う場合及びいわゆる「対テロ戦争」に関連する状況下における人身保護請求の対象範囲の縮小傾向が確認された。 第三に、外国人の出入国管理に関連する2006年の連邦最高裁判決の分析を行った。同年、連邦最高裁は、退去強制命令に対する裁量的救済の対象を縮小する立法の遡及的適用を肯定したほか、刑事司法過程における外国人の人身保護請求に対する連邦裁判所の司法審査の可能性を否定するなど、大局的には外国人の適正手続等の権利を制限する傾向にあることが確認された。 上記の調査及び分析結果をまとめた上で、慶應義塾大学大学院プロジェクト科目の授業において口頭報告を行った。現在、当該報告に基づく論文を執筆しており、当該論文は平成19年度の静岡大学の紀要上で公表する予定である。
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