平成19年4月から5月にかけては憲法関係の学会である全国憲法研究会(2007年5月12日)での報告「メディア環境の変容と表現の自由」の準備にあて、主に戦後憲法学における「メディアの自由」の理解・構成の変遷、そしてその背後にあるメディア市場の把握について分析した。そこで得た結論は、ジャーナリスト等の職能の自律の保障を核心とするマスメディアの自由を、表現の自由からも経済的自由からも区別される独自の基本権として新構成すべきであり、その観点から「内部的自由」を再評価する必要がある、というものである。 この報告の後、以下の2つの方向から放送の自由をさらに精緻化する研究に従事した。 第一は、基本権理論・ドグマーティク全体を捉え直すことにより放送の自由を反省する作業を行った。具体的には、現在のドイツ・メディア法学で注目されている社会学の「システム理論」に定位した「基本権のプロセス化」および「プロセス的放送の自由」について分析し、先の報告で開陳した「認知主義的表現の自由」論(表現の自由を民主主義の観点から根拠づける憲法学の通説的見解は、各人の自由な言論活動から共有信念という共通の解釈に収斂させる認知装置の生成を前提にせざるをえず、この認知装置の生成の阻害要因がある場合には国家による積極的是正措置が憲法上要請されるとの私見)の充実を図った。このような研究から「憲法学における社会システム理論の位置」という論文を報筆し、現在校正中である。 第二は、以上の認知主義的表現の自由論に関連して、共有信念という認知装置生成プロセスの阻害要因として、現在のメディア・情報市場の特性があげられるとの問題意識から、この市場の性格を分析し、それを踏まえたメディア平成20年2月にドイツに赴き、資料収集等に従事した。
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