平成20年度は、研究実施計画にしたがって、以下のような成果を得ることができた。まず、(1) メディアの融合に対応すべくEUにおいて制定された「国境を越える視聴覚メディアサービス指令」について分析した。その結果、EU法は放送の自由を経済的自由である「サービスの自由」として把握しているものの、それはあくまで構成国の「国境を越える」側面のみに妥当するのであって、文化的自由の観点からの規律は各構成国に委ねられていること、したがってEUにおいて放送の自由はこうした複合的な性格を有していること、にもかかわらず日本でEU法を参照する議論は放送の自由の経済的側面しか見ていないきらいがあること、などを趣旨とする小論を発表することができた。(2) いわゆる放送と印刷メディアの部分規制論について、アメリカおよび日本の有力な学説を検討することにより、マスメディアの自由の捉え方に反省を求める研究を実施した。純粋に規範的な観点からメディア間の規律の差異の正当性を論証しようと試みてきた部分規制論も、実は周波数の稀少性といった技術的与件が解消されるに伴い、その基礎が掘り崩されてしまう、むしろ「場としてのメディア」と「主体としてのメディア」という新たな規範的な二分論により把握するべきではないか、との結論に達し、現在、それをまとめた論文「部分規制論」を印刷に回しているところである(2009年秋に出版予定)。(3) なお、研究実施計画で言及していた、番組編集準則についてのコンメンタールの執筆も終え、校正中である(2009年夏に出版予定)。加えて、放送法制についての教科書執筆にも参加することができた。(4) 前述した「場としてのメディア」と「主体としてのメディア」に関連して、後者は個人の有する表現の自由として把握できる一方、前者はマスメディアの自由という独自の基本権として捉えるべきとの視点を提示した。このマスメディアの自由を、人権理論全体を再構成するなかで位置づけるべきとの問題意識のもと、社会システム理論を下敷きにした、社会の多元化・進化プロセスの保障を内容とする「制度的自由」の理念とそのマスメディアの自由への応用について予備的考察を行い、成城大学法学部の記念論文集に掲載することができた。現在はこの研究を発展させているところである。
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