本年度は、昨年度に引き続き、合衆国の州憲法における、議会の立法過程に関する諸規定の研究を進めた。その結果、次の点について確認することができた。そもそも、連邦憲法においては、連邦議会の立法権は列挙された事項にしか及ばないとされているのに対して、州憲法上、州議会の立法権は無条件であると解されてきている。これに対して、19世紀半ば以降、多くの州憲法典で条文の詳細化・長大化が見られたが、これは、論理的には、かかる無条件な立法権への制限として理解することができ、歴史的にも、立法府の権限を制限することを目的としていた。そして、このような動きの動機としては、立法が公益ではなく一部の特殊利益に仕えているという、州議会・議員に対する不信を挙げることができる。法案の主題は一つに限るとする単一主題ルールなどの、立法過程にかかわる規定を(州)憲法に設けることについての合衆国での議論においては、特殊利益立法を抑制するという目的それ自体は一般に肯定されてきたが、その実効性については議論が分かれている。しかしながら、近年のアメリカ憲法学では、「法形成のデュー・プロセス」論が代表的であるが、立法プロセスへの関心が高まっており、州憲法のこれらの規定への注目も目立つようになってきている。それらの中には、連邦レベルでもこのような規定を導入すべきであるとする提言も見られる。以上の研究成果をまとめたものは、『産大法学』に、「アメリカ州憲法の単一主題ルール」と題する論文として公表した。
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