本研究は、国際法の基本原則の一つである不干渉原則の国際法における地位を明らかにすることを目的とする。平成18年度は、まず、不干渉原則の歴史的構造の解明のための史料収集及び分析を行った。 具体的には、国際連合憲章制定会議やジュネーブ条約追加議定書の起草過程に関する交換文書を購入し分析するとともに、英国国立公文書館において、19世紀から20世紀半ばにかけての、干渉に関する外交史料の収集を行った。 検討の結果、明らかになったことは、第一に、19世紀において、不干渉原則が国際法上確立された際に、干渉として念願に置かれていたのは、他国の内戦に際して、軍隊を派遣し当該内戦の帰趨に影響を与えようとする行為であったということである。言い換えれば、今日干渉として理解されている、他国の意思の強制については、十分な国家実行は存在しえなかったということが明らかになった 第二に、20世紀以降においても、引き続き内戦へ軍隊の派遣が不干渉原則の主要問題であるとの理解を見出すことが可能であることが明らかになった。例えば、友好関係原則宣言の起草過程において、英国が重視していた点の一つは、内戦に際して既存政府の要請に基づいて軍隊を派遣する権利を留保することであった。 したがって、国際法上の不干渉原則についての史料の検討からは、干渉=強制という現在の一般的理解は、国家実行上は考えられているよりも歴史が浅く、その地位についてもそれほど確固としたものではない可能性が示唆された。
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