本年度は、干渉に関する20世紀の国家実行および学説を調査し、その結果をもとに、干渉の現代的機能についての検討を行った。 調査結果の分析から、以下の点が明らかになった。第一に、国家実行においては、一国での内乱に対する、他国による軍事力の派遣の禁止という一般規則の存在は19世紀以来確認することができる。スペイン内戦においては、軍事力の直接の派遣を越えて、戦争における中立国に類比的な義務を他国に課す傾向も見出された。 他方、内乱以外の強制一般については、20世紀前半までにおいて一般国際法を基礎付ける国家実行は確立しているとはいえず、強制は、客観国際法の規律の埒外にある「自由」ないし「欠缺」領域にあると考えられた。 「不干渉原則」は、このような強制に関する「自由」ないし「欠缺」を、強制の一般的禁止という客観国際法規則によって規律するために、20世紀前半にオッペンハイムやフェアドロスといった国際法学者が、既存の実定国際法規則を基礎に国際法秩序を体系化するという学説の法的機能を実践することによって導出されたものであったことが、学説の検討から明らかになった。 しかし同時に学説は、このようにして形式的には強制を客観法によって包摂する一方で、不干渉原則の概念の不確定性や、国家間の権限の競合といった仕組みを導入することによって、実質的には、強制についての「自由」・「欠缺」領域を保存していたことも明らかになった。つまり、「不干渉原則」は、国家実行に基礎付けられた客観国際法が強制について欠如するなかで、強制の問題を客観国際法によって包摂すると同時に、実質的には、強制に関する国家の自由を残存させるという機能を担っていることが明らかになった。
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