本年度は、以下の点から、相互承認原則の位置づけに関する検討を行った。 具体的には、第1に物の自由移動に関する数量制限の禁止に関する、無差別的適用措置についての基本判例で相互承認原則を確立したとされる1979年のEC裁判所のCassis de Dijon判決及びそれ以降の判例の発展を再確認した。この判決の意義は、相互承認原則の確立、合理性の理論の確立、構成国法の調和に関するアプローチの変化など、多岐にわたるものであることが確認された。この成果は、『EU法基本判例集』20番事件の解説として公表した。 第2に、国際私法に関する、準拠法アプローチと外国判決承認アプローチの相違の再確認として、外国の公権力的な行為が問題になっている場面である、戦後補償に関する国際私法上の諸問題と、外国国家に対する裁判権免除について、検討を行った。戦後補償問題に関しては、外国国家に対する裁判権免除の範囲の問題、外国判決の承認における承認対象となる判決の範囲の問題、準拠法選択に関する国際私法の適用の有無の問題の、以上3つの問題について、公権力性が共通の基準となっていることが明らかになった。また、最高裁判所平成18年7月21日判決の評釈においては、わが国が制限免除主義を採用することが明らかになり、公権力的行為か否かで裁判権免除が付与されるか否かが決まることが明確になった。これらについても、論文として公表した。
|