本年度は、「判決形成に関する裁量(2)一請求主題の特定」につき、請求解釈権に関わる判決の分析を行った。関連判例を分析した結果、(1)国際司法裁判所(以下、裁判所)では提訴の受理要件を紛争主題に限定する柔軟な制度が採用されており、申立て(一方的提訴の場合)ないし付託合意(合意提訴の場合)の取扱いを通じて裁判所が請求の形成に関与できること、そして、(2)請求の特定に際して、裁判所は自らが判断する「現実の紛争」に照らして管轄権や紛争主題を解釈・決定することで請求を特定していること、を実証できた。また、こうした裁判所による請求の解釈・特定の権限は、学説上、「固有の権限」と理解されており、設立文書等に明文規定を欠く裁判所の実行を正当化する理論として「固有の権限」論が通用性を持っていることも確認できた。確かに「固有の権限」は裁判所の「機能」を存立基盤とするため、その「機能」理解によっては如何なる実行も正当化する可能性を持つが、請求解釈に関しては「固有の権限」の存在自体に争いがないことも判例上みてとれた。 以上の分析を通じて、裁判所による請求の解釈・特定は「固有の権限」の行使として行われており、当該権限行使は「訴訟の発展性」と「訴訟の安定性」を考慮することで規律されていることが明らかとなった。つまり、相対立する要因(訴訟の「発展性」と「安定性」)の均衡を内実とする「良き司法運営(la bonnle administration de la justice)」概念により、請求の特定をめぐる裁判所の裁量行使はその妥当性を評価されるべきであると結論付けられる。なお、以上の研究成果は、「国際司法裁判所による請求の規律」『国際法外交雑誌』第107巻4号(2009年)として公表されている。
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