研究概要 |
本年度は,競争者排除規制の総合的・比較法的研究の観点から,まず,競争者の排除・市場閉鎖が問題となる非水平合併(垂直合併・混合合併)を取り上げ,競争法における企業結合規制の目的・根拠を検討した。非水平合併において,反競争効果が生じるシナリオが明確になり,また,競争評価にあたり考慮すべき事実についてもかなり明確になってきた。経済理論とも整合的な形で,行政機関(競争当局)が競争法を法的に執行・運用可能なレベルまで具体的になっている。しかし,たとえば,競争者が対抗戦略をとる能力・インセンティブの評価,非水平合併の効率性に対する評価が,欧州と米国との間では異なる。また,情報通信分野における企業結合規制についても検討した(市場画定・競争上の分析・問題解消措置,来年度公表予定)。また,3月には,中国・北京にて,中国独占禁止法の企業結合審査を担当すると思われる商務部の担当者に対して,非水平合併規制の在り方・米国と欧州との運用の相違について報告し,意見交換を行った。本研究の目的の1つである,アジアにおける研究発信の機会を実現させることができた。さらに,エッセンシャル・ファシリティの議論を反映させた,不可欠施設を保有する事業者による参入阻止行為について迅速な対応が可能となるような独禁法の法改正の試み(独占・寡占規制の見直し)について,「競争を実質的に制限すること」「競争を実質的に制限することとなる」の意義,競争排除型の行為が問題となる場合(企業結合規制の場合も含む)に「競争を実質的に制限すること」「競争を実質的に制限することとなる」と認定するに必要な証明の程度・証明が必要な事実とは何かを考える手掛かりを検討した。いずれにしろ,競争排除型の「競争を実質的に制限すること」の意義・立証の在り方は,今後の法改正により,競争排除型の私的独占・一部の不公正な取引方法に対して課徴金が課せられることが見込まれている。そうであるとすればなおさら,競争排除型の場合の「競争を実質的に制限すること」「競争を実質的に制限することとなる」の意義・立証の在り方を研究し,解明する必要性は非常に高くなっていると言える。
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