本研究の目的は、職場における労働者の個人情報保護を実効性あるものとするにはどのような仕組みが必要であるかを、比較法的検討を通じて、明らかにすることにある。 比較法の対象として取り上げるのは、EUおよびドイツである。EUは、1995年に個人情報保護に関する指令を発し、そのなかで安全管理措置のありようについても言及した。そこで採用された措置は、ドイツが同国における最初の個人情報保護である連邦データ保護法以来採用している個人情報保護のための措置である。すなわちそれは、監督官庁による監視を通じて個人情報保護をはかるのではなく、組織内にデータ保護監督員を任命してその者を通じて組織内の個人情報保護を図ろうとするものである。 まずEUおよびドイツの状況を分析するにあたっては、なぜこのような仕組みが採られたのかということが注目される。次に問題となってくるのは、このデータ保護監督員がいかなる法的位置づけをもつものとして把握されるかである。すなわち、その任務を十分に全うするための職業訓練システム、身分保障、独立性の確保とくにこのことはデータ保護監督員が当該組織(会社)のなかで従業員としての業務をも負っているときに大きな問題となる。 平成18年度は、ドイツにおける判例および分権の分析研究を中心におこなった。また、日本人のドイツ労働法研究者およびドイツから招聘されたドイツ人の労働法研究者との議論を通じて検討を深めてきたところである。日本においては、個人情報保護にかかわる専門スタッフを置くという意識はまだまだ弱いが、今後必要となってこざるを得ない。次年度にこれまでの研究をまとめていくことにしている。
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