本研究は、スウェーデンの社会サービス法における利用者の自己決定権尊重の原則に焦点をあて、その法的性格と特徴を明らかにし、わが国と比較検討を行うことを目的とする。 今年度は、第一に、同法の制定過程文書等の文献・資料の分析を行った。検討の結果、自己決定権尊重原則の内容には、(1)特定のサービスの利用に関する自己決定のみならず、(2)自分の生活状況に関する自己決定という広義の内容を含むこと、選択自由の原則については、(1)複数の選択肢の中から選択し決定することのみならず、(2)施策の形成・実施において利用者が影響力を及ぼすべきこと等の広義の内容を含むことが明かになった。これらの点については、日本法政学会で口頭発表を行い(07年6月)、学会誌に論文を公表した(07年11月)。 第二に、判例の分析を行い、自己決定権および選択自由の原則の内容について、より詳細な検討を行った。自己決定権の制限については、援助受給の要件として個人に課される要請の内容に従って分類し、選択の自由の制限については、対象者とサービスの種類に従って分類し検討した。詳細な分析のためには今後の一層の研究が必要であるが、これまでの分析の結果、自己決定権の制限に関しては、「自分の状況に対する責任」の原則および「個人の資源の解放・発展」ないしリハビリテーションの原則による制限が課される一方で、他の施策によって代替可能でない場合には、資源の不足によっては制限されないことが明かになった。これに対して選択の自由に関しては、コミューンの資源の状況による制限が課されることが明かになった。 第三に、2007年8月にスウェーデンで現地調査を行い、文献資料では十分に把握できない運用状況等について、実施機関および監督機関を中心にインタビューを行うとともに、現地の研究者から研究課題に対する助言を得た。これらの成果は、前述の論文等の内容に活かしている。
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