申請者は、これまで「中華人民共和国労働法」に関して、歴史的展開と同法および関連法規の内容について研究を進めてきたが、本研究では、個別的な労働契約をめぐる判例分析を通じた労働紛争解決規範の具体的運用状況を研究することが目的である。特に、個別労働契約紛争の中で、解雇(使用者による労働契約の一方的解約)の問題に焦点を絞って検討を進めている。また、本研究のもうひとつの課題は、現在起草作業中で「中華人民共和国労働契約法」について、草案などの関連資料を分析し、その内容を検討することにある。同法は、中華自民共和国労働法所定の労働契約に関する特別立法であり、労働契約の生成・展開・終了の場面について、詳細な規定をおくことを予定している。特に、焦点となっているのは、解雇を含めた労働契約の終了の場面であり、本研究は、近々成立予定の同法の検討なしには完成しないと考えられる。 以上のように、現行の労働法における解雇紛争の判例分析と新しく制定される労働契約法の起草過程の検討が、本研究の大きな目的である。そして、判例分析の基礎資料となる判例集の収集については、平成18年度のうちに、多くの判例集を収集することができた。一方で、労働契約法の草案も数回にわたって改訂され、こうした立法資料についても、現時点で収集可能なものについては、ある程度、収集・整理することができた。また、中国の専門家や実務家、企業の人事担当者とも意見交換を行い、問題点等について検討することができた。現在、判例資料の訳出を行いつつ、労働契約法の立法資料の分析を行っている。同時に、日本でも労働契約法の制定作業が進められているが、これは、新たな労働契約の解釈問題を踏まえてのものであり、その観点からも、日本の近年の判例の動向についても、研究を進めている。
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