本研究は、中国の解雇法制と労働契約法制を研究対象としているが、本年は、中国において、2008年から施行されている「労働契約法」について、学説の議論状況と実際の紛争処理手続きの状況などについて現地調査を行った。また、台湾において、中国の労働法制についてどのような研究の状況にあるかも調査を行った。「労働契約法」は施行から1年が経過したが、2008年9月になって、ようやく同法の実施細則である「労働契約法実施条例」が公布・施行された。本年度は、こうした労働契約法の実施状況と新しく制定された労働紛争調停仲裁法に基づく紛争処理手続について研究を行うとともに、解雇後の失業保険制度についても、研究を行った。その成果として、「中国労働契約法の内容とその意義」(日本労働研究雑誌576号35-44頁)、「中国の失業保険制度」(労働法律旬報1684号47-53頁)と「中国における労働契約の解約・終了の法規制」(季刊労働法224号32-42頁)として公表した。これらの論文では、中国において、有期契約が制限され、解雇手続きや経済的補償金などの点で、労働契約終了に対する制約が強くなった一方で、懲戒処分について、処分の事由や処種類を使用者による就業規則に委ねた結果、法律上認められた「重大な就業規則違反」を理由とする解雇(予告や経済的補償金が不要であり、就業に関するルールや違反の重大性の程度などについて、使用者が一方的に決定できる点で、解雇権の行使が従前より緩やかになる可能性がある)が今後増加する可能性があることを指摘した。
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