研究2年目の本年度は、脳科学との関係では、引き続き、示唆的な個別の高次脳機能研究と、脳科学の進展が法的自由意思に対して与える影響に関する議論とを、探索した。前者については、本研究に直接利用可能な情報に触れることはできなかったが、探索の過程で、脳科学技術の進展が現実に引き起こしうる具体的な法的問題に関する知見を一定範囲で得た。後者については、脳科学者と法学者の間で盛んな議論が行われており、近年相当程度の議論の蓄積があることが分かり、そこにおいては、決定論が直接影響を及ぼす領域と法的自由意思論が妥当すべき領域との仕分けが意識的に行われている点が、注目された。升り法学との関係では、引き続き、事後行為に基づく刑の減免事由(中止犯、自首、被拐取者解放等)を広く視野に入れ、主観的要件についての考察を深めた。共通要件と解される行為意思と客観要件該当事実にかかる認識・予見とは、ともに法的コントロールの対象とされることから要求される要件と解され、後者は特に犯罪者であることを前提とした寛刑によるコントロールであることにより必要となるものであるとの結論を得た。減免事由ごとの個別要件を構成すると解されるその他の主観的要素については、非難の減少をどのように評価するかという観点から、処罰規定の保護法益の重さおよび減免規定の保護法益の重さ、そして用意された法的効果の大きさを比較する中に、各減免事由を位置づけて整理を行い、任意性要件を「限定型」「中間型」「非限定型」の3種に分類する枠組みに基づいた一定の中間的結論を得た。次年度は、脳科学の知見を利用して絶対的自由意思の理解を確定させ、また、各減免規定における相対的自由意思の概念内容を、特に中止犯に重点を置いてまとめたい。
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