現代の企業犯罪への注目の高まりに応じて、法人処罰の活用が強く主張されてはいるものの、実際に、いかなる場合に法人処罰が許されるのかという基本問題はいまだに十分な解決をみない。刑事罰の一形態である法人処罰が、刑事法の理論に基づき、正当に基礎付けられてこそ、現在の企業犯罪対策の一環として主張される法人処罰の積極的運用が恣意的なものとなるおそれを回避することができる。 そこで、本研究は、法人処罰という社会統制の道具が、いかにして、刑事法の論理から正当なものとして是認されるか、いかなる範囲で使用可能かについて考察することを目的とした。 その手法として、主要な先進国における法人処罰の具体的要件の形成過程と現在の内容を明らかにすることにした。そして、英米独豪について主要な立法過程・学説の沿革研究を行うことができた。 特に、イギリスについては、2007年の新立法の形成過程を仔細に調査し、オーストラリアについては、1995年の新刑法典の依拠する思想を解明することに成功した。この研究は、従来の我が国に存在しなかったものであり、研究の間隙を埋めるものである。 今後、日本でも法人処罰の立法がなされる可能性は高いが、その際には、いかなる基本的思想に依拠し、具体的にどのような処罰要件を採用するかが必ず問題となる。その問題を解決するための基本的資料として、本研究は今後、極めて重要な意義を有することになる。
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