今年度は、前年度にドイツにおいて収集した資料の分析に着手するとともに、引き続き、大阪地裁・高裁において開催されていた「大阪刑事実務研究会」に出席し、実務上の考え方の吸収に努めた。 量刑の基礎理論の探究は、煎じ詰めれば、責任と予防という刑法上の基本問題の探究であるが、前年度は、責任と一般予防の関係につき若干の検討を行ったところである。 今年度は、残る刑罰目的のうち、特別予防目的を取り上げ、責任と特別予防の関係に重点を置いて検討を進めたが、その成果の一部は、西田典之ほか編『刑法の争点』に掲載された論説「責任の概念」、および、『法律時報』に掲載された論説「刑法における人間」において公表した。 そこでの検討結果のラち本研究に関する部分を一言でまとめれば、刑罰の本質は応報であり、特別予防的考慮は、別途、行為者の危険性に対処する処分の枠組みにおいて行うべきではないか、ということになる。わが国では、城下裕二教授の見解に見られるように、刑罰の中に、特別予防的考慮を含め、あるいは、刑罰の本質をそこに求める見解がむしろ有力であったが、このような本研究の方向性は、刑罰から不純物を取り除く方向を目指すものである。 具体的には、犯罪的性格に相応した犯行であれば刑は加重されるべきだ、犯罪エネルギーが大きいことは責任非難を高めるのだ、とされてきたが、本研究の成果によれば、そうしたことが責任を高め、ひいては、刑を加重することにはならないのであり、それは刑罰の本質からは説明できない特別予防的考慮による刑の加重であり、否定されるべきことになる。 なお、今年度中に、量刑問題を扱う大阪刑事実務研究会は終了したが、新たに、関西大学を会場にして、「制裁法・量刑研究会」が発足し、日本とドイツの研究者を結集したシンポジウムに向け、本研究代表者も、本研究を基礎にして共同研究に参加し、より深い問題意識へと導かれている。
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