本年度は、総論的には、ドイツ量刑論における犯行均衡原理(Tatproportionalitaet)こそが責任に応じた刑罰というわが国でも共有されている理解を実質化するものだとの認識から、わが国の先行研究である小池信太郎講師の論文の検討を手始めに、分析を行った。結論的には、責任刑を考える際に均衡を図るべき対象は不法であり、結果が応報的観点から考慮されるべきこと、また、不法を加重する要素として、一般予防的考慮が位置づけられるべきことが、明らかとなった。 続いて、具体的な量刑事情としては、本年度は「時の経過」が量刑に及ぼす影響について、検討を行った。これは、1つには公訴時効制度の理論的根拠との関連において検討されるべきテーマであるが、公訴時効の見直しは近時法務省が検討作業に着手している重要課題でもある。結論的には、公訴時効制度は、実体法的観点からではなく、限られた資源の有効活用という実際的側面にあるものと思われたことから、「時の経過」が量刑に及ぼす影響は、被害者・遺族の被害感情の微弱化、社会的応報感情の微弱化という観点から考慮すべきであること、また、被告人自身にもたらされる事情については、それが一種の罰として考慮されるべきだとは思われず、特別予防の必要性を減弱化させる限りでのみ、また、応報刑としての刑罰の本質・刑罰の一般予防目的の実現を損なわない限りでのみ、考慮されてよいという結論が得られた。
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