本年度においては、裁判員による公判審理への参加を実質化するための取り組みを検討するに当たり、文献により研究の前提としての基礎的な知見を得ると同時に、裁判所で実施されている模擬裁判・評議を傍聴することにより、裁判所が裁判員を実質的に関与させるために行っている取り組みに接する機会を得た。 1.主張・立証の工夫のあり方 模擬裁判では、主張立証の理解を助けるべく、職業裁判官のみならず検察官、弁護人も工夫をしていたが、主張立証を視覚的に補足するスライド・メモの使用が、行き過ぎれぱ証拠に基づかない誤った印象を与える恐れがあり、裁判官による評議での誘導の危険と並び、この点についての配慮が必要であるとの印象を得た。 2.公判審理の簡易・迅速化との関係 諸外国の状況から得られた知見として、事件数増加に伴う司法への過剰負担を解消するための、公判審理を一部簡易化する取り組みが、関与の実質化とは対立する関係にあることが明らかになった。たとえばドイツにおいては、審理の長期化とそれに伴う証人の負担を回避すべく、実務上、裁判官から量刑予測を示し、否認する被告人に自白を促して審理を促進しているが、これに参審員は関与しないことから、参審員が裁判の結論に与える影響はきわめて小さくなってしまっている。我が国においても過剰負担への対処が現実的な課題となっていることから、関与の実質化方策を検討する上で、かかる観点への配慮が不可欠であることが明らかとなった。 3.被害者関与との関係 そのほか、平成18年度中に生じたあらたな状況として、近時の刑事訴訟法改正により、被害者の公判審理への関与が認められたため、かかる構造の下での審理が裁判員に与える影響についても、国民参加を設ける一方で被害者の公訴参加権や在廷権を保障する諸外国の状況を参照しながら検討を加える必要が生じた。
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