本年度においては、裁判員による公判審理への参加を実質化するための取組みを検討するに当たり、引き続き、文献により基礎的な知見を得るとともに、公判廷の構成、違法な手続によりえられた証拠の取扱いに関する成果を公表する機会を得た。 1.公判廷の構成 判決の言渡し期日において検察官が在廷していないまま行われた判決言渡し手続の有効性に関して、公判廷の構成の一部欠缺はそれ自体判決を不成立とするものではないが、判決に影響を与えるものとした最高裁決定を、手がかりとして、刑事訴訟法により定められた公判廷の構成の一部が欠けたときに、訴訟法上いかなる効果が発生するかについて検討を加えた。裁判員が関与する裁判においても、たとえば、教示の不十分さにより裁判員の手続参加が実質的に行われなかった事案の処理が問題となりうるため、以上の検討は有益なものと思われる。 2.違法収集証拠の取扱い 最高裁は近時、証拠が違法な手続により獲得されたものであることを理由として、その証拠としての利用可能性を否定する判断を下した。こうした、いわゆる「違法収集証拠排除法則」が存在すること自体は、学説・実務においても夙に承認されてきたところであるが、具体的な適用例に乏しい状況にある。裁判員が関与する裁判において、裁判員が証拠の採否に関わることはないが、証拠の範囲の広狭は罪責をめぐる評議の内実に大きく影響を及ぼすものであり、その観点からも、本決定を手がかりとして同法則の射程、実務上の位置づけについて検討を加えたことに意義が認められよう。
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