本年度においても引き続き、文献により基礎的な知見を得るとともに、以下の事項について検討を加え、その成果を公表した。 1. 司法取引を通じた事実解明活動と裁判員制度 犯罪現象の質的変容に伴い、捜査活動においても従来とは異なる手法を整備する必要が生じており、その一例として、不起訴等を約するなど権限行使に関する便宜を供与することと引き換えに被疑者から捜査活動への協力を得るという、いわゆる司法取引も検討の対象となっている。もっともこのような手法により、一部の刑事事件が、捜査機関の判断によって公判手続に顕出させられないことともなり、結果として裁判員の刑事手続への関与を形骸化させるおそれをはらむ。この点について具体的にいかなる調整が行われるべきかについては、情勢の変化に対応して新たに検討が必要となった分野であり、本研究も有益な貢献を行うものとなった。 2. 報道の自由と裁判員制度 刑事事件をめぐる報道がなされることは、受け手である国民の関心に応えるものであり、それ自体として重要な意義を有する。他方で報道は、事件に射する一定の見方を醸成するもので、事実認定者がこれに強く影響されると、証拠に基づく事実認定という要請が形骸化させられるおそれが生じる。この点を踏まえ、とりわけ職業的訓練を受けていない裁判員との関係で、その関与を報道により生じる偏見に左右されない実質的なものとするために、報道機関、司法機関、そして国民の側に、どのような意識が求められるかについて、有意義な検討を加えることができた。
|