研究概要 |
研究費を申請する段階で提出した研究実施計画の通りに研究を行い,その成果を公刊した。 (1)中世イングランドにおけるアプルーヴメントに関する研究 まず,18年度の前半は,「共犯者による捜査・訴追協力と減免的措置の付与」というテーマを巡り,あらゆる時代の論者がその起源と見なしてきたところの,中世イングランド(12〜15世紀)の「アプルーヴメント」につき,Bractonの『De Legibus』等を始めとする同時代の法律書を中心とした一次資料をインテンシヴに分析したうえ,先行研究たる二次文献も幅広く渉猟し,同時代におけるアプルーヴメントの在り方,後代に及ぼした影響等を明らかにした。その成果は,井上和治「共犯者による捜査・訴追協力と減免的措置の付与(1)」法学協会雑誌123巻6号1-62頁(2006年)として公刊された。 (2)近世イングランドにおける王冠証人システムに関する研究 次に,18年度の後半は,アプルーヴメントを前提として発展した,近世イングランド(17〜19世紀)の「王冠証人システム」に関する研究に移行した。その際,同時代の法律書等に加えて,ロンドン市とミドルセックス州における重罪の第一審を管轄するOld Baileyに関する10万件以上の裁判記録(Old Bailey Sessions Papers)のうち,独自の検索方法により抽出した約2000件の事例を検討する作業が中心となったが,これを通じて,同時代における王冠証人システムの実際の在り方を再現し,同システムが現行法制の直近のモデルとして認識されていることの意味を明らかにした。その成果は,井上和治「共犯者による捜査・訴追協力と減免的措置の付与(2)」法学協会雑誌123巻6号1-98頁(2006年)として公刊された。なお,王冠証人システムと同時代に生成・発展した各種の証拠法則との関係については,平成19年度中に,井上和治「共犯者による捜査・訴追協力と減免的措置の付与(3)」として,法学協会雑誌124巻6号(2007年)に公刊される予定である。
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