1.本年度は主として個人情報が現行法において、実際にどのような刑事法的保護を受けているかにつき調査を行った。また現行法にとどまらず、その改正・運用動向の変化についてまで、フォローを行った。個人情報は主として個人情報保護法罰則により保護されているが、それが必ずしも十分でないことから、与党内でも改正案提出の動きがあること、および地方公共団体レベルにおける個人情報保護条例の中に、法に先んじて刑事法的保護を拡張するものがあり、その全国的な拡がりにも注視してゆかなければならないことが明らかになった。他方で営業秘密に関しては、新たに不正競争防止法が改正されるため、集中的な調査は次年度に持ち越した。 2.理論的に最も重要な問題として明らかになったのは、一定量以上の個人情報を管理する者を捕捉したうえで、その者が漏示等を行った場合には、それがどれだけわずかな情報であったとしても、これを処罰するという基本的な法の前提が適切か否かである。もし個人情報の保護というものが、それをも包括的に捕捉する刑法上の名誉殿損罪におけるのと同じように、個々の主体にとっての情報の価値、プライバシー的利益のみに着目しているのであれば、現行法の基本的枠組みは適切でなく、むしろ主体の意思に反する個人情報の漏示等のうち、ことに当該主体に大きな損害を及ぼす行為を、包括的に捕捉する罰則が望ましいことになる。もしくは一定量以上の個人情報漏示のみを捕捉すべきだということになる。これに対して個人情報の保護というものが、より公共的な社会の基本的インフラストラクチュアを構成しているのであれば、ある種の公共性を担った個人情報取扱事業者の行為を、そしてそれが個々の情報主体に対してはそれほど大きな損害をもたらさないとしても、なお処罰するという建前がむしろ望ましいことになろう。このような基本的な理論的問題を解決することが今後の課題となる。
|