本年度は情報を一種の公的側面に着目して法的に保護する際の問題点について詳細に研究を行った。 情報はそれが個人のプライバシーに関するものであれ、営利組織のトレードシークレットに属するものであれ、一般には個人的法益として特徴づけられている。そして前者の観点から情報の人格権的性質が、後者の観点から情報侵害の財産犯的性質が導き出され、さらにそのことが情報を法的に保護するにあたり、規制のあり方を従来の理論ないしパラダイムから基礎づけ、同時に拘束することになる。 たしかにこのことは重要な分析視角を提供するものではあろう。しかし情報はとくに市場を通じた効率性の実現を、究極的な目的とする各種法規たとえば不正競争防止法においても、そもそも市場の機能を確保するための基礎として、刑罰により保護されているのである。そしてこういった観点は、従来から想定されてきた情報の保護価値とは、かなり趣を異にするものといわざるをえない。 本年度はこのような問題意識に基づいて、市場の機能を確保するための情報の保護という、一種の公的側面に着目しつつ各種比較法研究を行った。ことに英米では法の経済分析をとおして、権利の概念自体を効率性に解消しようとする動きがみられ、情報の開示ではなくむしろ遍在・非対称性が、不法の実体と解される傾向があることには、わが国の今後の立法にも活かしうる側面が多いと思われる。具体的にいうと法定刑の財産犯との連動を考慮しない、親告罪としての色を弱めるなどの改正が考えられるであろう。
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