本研究は、複数の者が協働して犯罪を遂行した場合に、個々の関与者に対して適切に刑事責任を問いうるような責任原理を明らかにすることを目的とする。これは、責任原理と集合行為原理の複合問題であって、それぞれの問題を原理的に解明し、総合することが求められる。またそれは、いうまでもなく、具体的な刑法解釈論上の問題を解決しうるものでなければならない。 今年度は、研究の最終年度として、不十分ながらもこれまでの基礎理論的研究から得られた方向性をもとに、集合的行為や責任原理に関わる刑法解釈論上の問題をいくつか検討し、具体的な解決を示すことに努めた。まず、「集団犯罪・組織犯罪と共犯理論の再構築」と題する共同研究のメンバーとして、組織犯罪処罰法を具体的な素材として、同法の運用実態を検証するとともに、理論的な問題として、集団的あるいは組織的な犯罪現象に対して、従来の共犯論で対処できる限界はどこまでなのか、個人犯罪を前提とした伝統的共犯論を見直すべき部分はないのかを検討し、その成果を日本刑法学会関西部会において報告した。また、集団犯の典型とされる騒乱罪に関して、騒乱罪の成立要件における「共同意思」要件の意義をどのように解すべきかを論じた論文を公表した。 法哲学的な基礎理論研究としては、引き続き、過去50年にわたり英米の法哲学、倫理学において集合的責任という概念をめぐっていかなる議論が展開されてきたのかを検討した。この分野で優れた業績を残されたカリフォルニア大学バークレー校のクッツ教授と意見交換する機会を得、来年度に、共同研究を行う計画を持てたことも大きな成果であったといえる。 また、集合行為原理については、今年度も引き続き、関係する社会学・社会心理学の文献、とりわけ、自己カテゴリー化理論の最新動向をレビューした。
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