本研究は、(1) 鑑定の対象となる資料の保存および廃棄手続がどうあるべきかを、被疑者・被告人の防御権及びプライバシー権の観点から理論的に検討し、(2) 鑑定資料の保存と廃棄の実態を明らかにした上で、(3) 日本において必要な立法、運用指針を検討することを目的としている。 本年度は、アメリカ合衆国ニューヨーク州において、研究者等に対し聴き取り調査を行った。まず、アメリカ自由人権協会でDNAデータベースの調査を行っている研究者と、アメリカ合衆国におけるDNAデータベースの問題状況、2009年2月に出されたヨーロッパ人権裁判所の判断の影響力等について意見交換を行った。また、イノセンス・プロジェクトのアナリストから、合衆国における再鑑定資料の保存状況、保存されていなかった場合の法的効果、最高裁判例に対する評価等について意見を聴取した。鑑定資料の保存についてイノセンス・プロジェクトの示すモデル案といくつかの州の法案とを比較検討し、公表する予定である。 日本については、再審請求事件について、鑑定資料の保存状況に関する聴き取り調査を行った。この事案では、再審請求のために利用可能な鑑定資料の有無その所在を突き止めること自体が容易でないという問題があり、それは、鑑定資料の保存あるいは費消した経過が一元的に管理されていないことに起因するのではないかと考えられる。確定判決後の鑑定資料の保存方法・期間等を含めて、包括的なルールを提案する予定である。
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