研究概要 |
本研究の目的は,民法が想定する保証と近親者保証の実態に齟齬があることを前提として,近親者保証の実質的機能に配慮しつつ,近親者保証人の意思決定過程及び保証引受の経済的合理性を考慮しながら近親者保証人の保護のあり方を探求することにある。 本年度は,著しく巨額な近親者保証を暴利類似行為として全部無効とするドイツの判例法理及び学説を分析し,ドイツでは,(1)主債務者との密接な感情的結びつきからの近親者保証人の契約の締結に関する「任意性の低下」を定型的に認めるが,これは消費者保護の根拠として考えられてきた自己決定の基盤となる情報力の不足とは異質であること,(2)任意性の低下のもとで引き受けられた保証債務が担保機能を果たせないほど著しく過大である場合に契約を無効と判断することにより,近親者保証の実質的機能である弁済促進機能は担保機能と併存し得る限りでしか法的に正当化されないこと,そして,現在のわが国において,以上2点は保証人保護根拠として考えられていないこと,を明らかにした(『私法』掲載論文)。 「任意性」(第1点)に関連するものとして,わが国には,債権者に対して弱者の地位にある借主を保護する点で保証事案と類似性を有する事案に関する最判平成18年1月13日民集60巻1号1頁がある。この判決は,期限の利益喪失特約の下での利息制限法上の制限超過利息の支払について「任意性」(貸金業法43条)を否定した点で,強迫に至らない程度の任意性の低下に基づき借主を保護したものである。しかし,検討の結果,同判決は,「任意性」を,借主の金銭的窮迫状況にではなく,情報力・法的知識の欠如に由来するものと考えており,「任意性」の否定によって,実質的に,借主との情報力・法的知識の不均衡の是正のために債権者に説明義務を課しており,従来の消費者保護法における議論の延長線上にあるものであることが明らかになった(『商学討究』掲載論文)。 また,フランス消費法典における比例原則の導入に関する議論についても若干の検討を行なったが,これについては,平成19年度に研究を継続する予定である。
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