昨年度の比較法的な研究において、株主(投資家)平等原則の問題となる議論状況を確認したのに続いて、今年度の大きな方針として、わが国における議論の整理・検討を行うことを課題とした。比較法的な研究の成果をまとめるための準備的な作業を行うことが有益であると考えたからである。この課題について、「株主平等原則の現代的意義とその射程一わが国における議論の整理と分析一その1」と題する論稿を公表することができた。これまでのわが国における株主平等原則の議論、特にその限界論について、大きく二つの文脈(敵対的企業買収防衛策とそれ以外)に分けて分析し、わが国において、株主平等原則は「会社の利益の限界内の概念」であると理解されていること、ただ「平等」という政策目的がなぜ会社の利益に劣後することになるのかが、なお理論的には不明確なままであることを大きな問題点として指摘した。そして、歴史的・政治的・文化的な文脈を踏まえつつ、「平等」概念及びその妥当範囲を明確化することが有益であることを指摘した。 今年度は、当初計画では、欧州各国での議論をさらに深めることも課題としたが、ドイツにおける新株引受権を巡る議論、イギリス会社法の改正等を中心とする動きを把握するにとどまった。ただ、平等の問題について、歴史的・政治的・文化的・社会的な文脈の違いを分析対象に含めるべきことを強く意識するようになったことは大きな成果と考えている。平等の議論は、正しい文脈のもとで初めて可能になるとの認識をもつにいたった。 なお、今年度、海外文献調査等を予定していたが、わが国における議論の整理を中心としたため、この課題は、さらに比較法的な研究を進めた上で、最終年度(20年度)に実施するのが適当であると判断した。
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