本年度は、民事訴訟における情報流通をめぐる規律を検討するための基礎的な作業として、アメリカ法における近時の議論、および、わが国における主張・証明責任論(解明義務論)の検討を中心に、研究を行った。とりわけ、アメリカ法において議論が展開されている「情報の帰属ルール」に着目する議論について検討を行った。具体的には、基礎理論としては、Boneが批判的な検討を展開する「合意理論(contract theory)」や、Triantisらが主張するデフォルト・ルール(任意規定)をめぐる議論について、また、各論的な議論として、ディスカバリーやディスクロージャーの規律をめぐる議論(訴訟当事者・弁護士の行為規律に関する議論)を中心に、分析を加えた。 アメリカ法における議論は、その思考方法・分析枠組み(哲学的・思想的な背景を探る分析方法や、法の経済分析など)を含めて、わが国における主張・証明責任論を分析するにあたって、有益な示唆を与えるものであった。具体的には、(1)「財としての情報」という視点に立ち、情報の帰属主体(帰属すべき主体)と情報の保持者との実体的な関係を分析するという視角が重要である、(2)訴訟ルールが有する、当事者に対する事前効果(ex ante effect)に着目した議論が必要である、といった示唆を得ることができた。 本年度は、以上のような分析結果から得られた知見に基づいて、わが国の主張・証明責任論について、論文研究成果の一部として、「11.研究発表」に記載した論文を執筆し、公表した。同論文は、「情報の帰属」という分析視角から、従来の解明義務論の再構成を試みたものである。
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