平成19年度に行った研究の概要は、以下のとおりである。(1)ドイツ法における実体法上の情報請求権(情報提供義務)をめぐる議論状況に関する調査を行った。具体的には、本年度に公刊されたモノグラフィーの検討(議論の内容については、研究成果に掲載の論文を参照)を手がかりとして、ドイツ法の議論の意義と限界についての分析を行った。その結果、情報の帰属という視角から、当事者間の実体的法律関係を分析する必要があることが明らかになった。(2)アメリカ法における情報提供義務に関する議論状況に関する調査を行った。アメリカ法の思考形式と大陸法系(ドイツ法・日本法)の思考形式との違いが、何に起因するのかを視角から、アメリカ法の議論の検討を行った。その結果、信認関係をめぐる議論が有益であることが明らかになった。(3)わが国の民事訴訟における情報開示をめぐる議論についての調査を行った。具体的には、文書に表象された情報の内容に着目した規律の定立を目的として、文書提出義務をめぐる裁判例の検討を行った(とりわけ、金融機関の顧客情報の開示義務と守秘義務との関係を取り扱った、最高裁平成19年12月11日決定民集登載予定については、民事法研究会で報告を行った)。その結果として、情報の帰属主体と情報の所持者(文書の所持者)とが異なる局面において、文書提出義務の有無の判断にあたっては、情報の帰属主体の利益を十分に保護する仕組みが整っていない(情報の帰属主体に対する手続保障がなされていない)ということが明らかになり、情報の帰属という視点からの分析が必要となるとの示唆を得た。今年度での研究成果に基づき、研究課題に関する研究を、次年度においてさらに進めていくこととする。
|