本年度は、ドイツ法における裁判所が有する裁量規制に関する近時の議論についての検討を行った。その結果、民事訴訟における裁判所の訴訟進行に関する裁量権と自由心証に基づく事実認定権とは、明確に区別すべきであること、前者についての裁量規制の方法として、事前規制という方策(例えば、事前に当事者と協議をする)が適切であるのに対して、後者については、事後規制という方策(例えば、経験則違反の事実認定は違法であり上告審で破棄される)が適切であること、および、当事者が、裁判所の事実認定権の介入を排除する方法としては、特定の争点について要証性を生じさせない(主張を撤回する、ないし、争わないといり意思を示す)という行動をとることが必要となるにとが明らかになった。このことから、裁判所の自由心証が直接に支配しない主張過程と裁判所の自由心証が支配される証明過程とでは、適用される当事者の行為規律の内容が異なるべきであるという示唆を得て、前度までの研究成果を踏まえて、主張過程における当事者の情報提供に関する行為規律の内容についての分析を行った。具体的には、主張過程においては、要証命題の確定のために必要となる情報に限定されずに、当事者間の実体的法律関係の内容に則った情報提供に関する行為規律を定立することを試みた。その内容については、平成21年2月28日に開催された関西民事訴訟法研究会で報告をし、そこでの議論を参考として、さらに分析を行った。最終的な研究成果は、平成21年5月に開催予定の日本民事訴訟法学会での個別報告を行ったうえで、その内容を、学会誌に公表する予定である。
|