本研究は、契約締結後に事情の変動が生じた事例において、裁判所による契約の改訂が、どのような場合に、どのような原理に基づいて正当化されるのかという問題を解明することを目的としている。この問題について、日本法では、「事情変更の原則」という一般法理が承認されてきたが、同法理についても、契約の改訂という側面に関する立ち入った検討は十分になされてこなかった。しかし、日本経済が経験した大きな変動などを受けて、近時本格的な検討が開始された債権法改正作業においても、この問題は改めて大きな注目を集めている。本研究では、問題を解決するための手がかりを得るべく、議論の蓄積が豊富に見られるドイツ法およびアメリカ法における議論を参照しつつ、分析を進めている。 平成19年度の前半は、平成18年度に引き続いてドイツ法の研究を進めた。具体的には、ドイツにおいて導入が有力に提唱されている再交渉義務論について、契約改訂プロセスにおける法規制はどのようにあるべきかという観点から検討を加えた。平成19年度の後半からは、アメリカ法に関する本格的検討にとりかかっている。アメリカにおいては、学際的な知見を用いた多彩な研究業績が存在しており、来年度も引き続き検討を進める予定である。平成19年度に進めたドイツ法研究の成果、および、アメリカ法研究の成果の一部は、2008年3月に「名古屋大学法政論集」誌上に公表している。 以上のような外国法の研究を通じて得られた分析視座を基礎として、日本法に定着してきた「事情変更の原則」に関する批判的検討にもとりかかっている。その一端については、2007年10月に開催された日本私法学会大会において、口頭報告(単独)を行ない、学会の意見を仰いだ。
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