本研究は、契約が締結された後に事情の変動が生じた場合において、裁判所による契約の改訂が、どのような正当化根拠に基づいて、どのような要件の下で認められるのか、という問題を解明することを目的とするものである。この問題について、日本法では、「事情変更の原則」という一般法理が承認されてきたが、契約の改訂という側面に関する検討は必ずしも十分になされてこなかった。しかし、経済事情の大きな変動を受けて、この問題は改めて大きな注目を集めている。また、理論的観点からも、継続的な契約関係の重要性が、近時、強く意識されるようになっている。 このような状況を踏まえて、本研究では、議論の蓄積が豊富に見られるドイツ法、および、アメリカ法における議論を参照しつつ、「契約改訂規範の構造」に関する分析を進めてきた。分析の結果として、契約を当初の内容で維持することが信義則に反すると考えられる場合に契約の内容を制限する法理として位置づけられてきた、従前の「事情変更の原則」に替えて、当初の契約において引き受けられていないリスクが実現した場面における、契約当事者の自律的な規範形成を支援する制度として、「契約改訂規範」を位置づけるべきことを提唱した。 具体的な成果としては、日本私法学会第71回大会における報告に基づく論文を『私法』70号に公表した。その他に、契約改訂規範に関する上記のような理解を踏まえて、隣接する問題について、2点の研究論文を執筆した。
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