今年度の研究の柱は、(1)基礎資料の収集、(2)日本における学説状況の把握、(3)沿革研究であった。 第一に、研究の基礎となる文献及び裁判例(日・独・仏)の収集に力を注いだ。遺留分制度を直接の対象とする文献に限らず、社会学的な観点から論じられている、相続の在り方に関する文献も広く収集することを心がけた。 第二に、遺留分制度の存在意義をめぐるこれまでの学説の動きを、二つの軸を用いて整理し、これをふまえて、判例の動向との関係も意識しながら、現在の遺留分制度をめぐる議論を分析した(ただし、戦前の学説状況の検討については、来年度に行う予定である)。従来、あまり知られていなかった実務家の見解にも留意し、その位置づけを行った。そして、現在、一方で、日本遺留分法の母法であるとされるフランス法を範として、いわゆる強い遺留分制度を維持ないし再確立すべきであるとする議論があり、他方で、高齢化社会を背景として、遺留分制度の在り方の見直しの可能性を示す学説や裁判例が存在することがわかった。 第三に、日本遺留分法の沿革を探るべく、ゲルマン法・ローマ法からフランス革命前までの遺留分制度の変遷を概観した。先行研究が、主として仏独の法制史概説書をもとにしたものであったことから、より深い考察を行うために、17、18世紀の法律家の著書を参照し、また、日本ではほとんど紹介されていない近世自然法思想における相続および遺言自由の制限に関する考え方を紹介した。これらの研究を通して、フランス遺留分法はゲルマン法由来であると言い切ることはできず、また、そもそも、日本遺留分法は、必ずしもフランス法を継受したものではないのではないかという疑問をもつにいたった。次年度は、引き続き、この立証を試みる。
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