本年度は、まず、県営住宅の自治会から、住民が一方的意思表示に基づいて脱退することが認められるか問題となった事案について評釈した。本件は、原審が脱退を認めない判断をしていたところ、上告審で異なる判断が示された事案である。この事件の背後には、自治会費、共益費の支払い拒否と団体からの脱退の自由の関係という問題がある。団体からの退会の自由自体は憲法上の団体形成の自由に鑑み、認められるべきであり、最高裁はかかる点に配慮した判断をとりながら、結果としても支持すべき結論を示している。また、入会団体における会則の公序良俗違反性が問題となった事案の評釈をおこなった。本件においても、最高裁は、入会団体の本質に配慮しながら、憲法上の平等原則に配慮した判断を行っており、支持すべき結論を示している。いずれの事件においても、現在の団体が抱える問題との関係において、団体自治、団体形成の自由といった基本的な課題が取り上げられている。結論自体は、支持すべきであると考えるが、他律的な規範として公序良俗が活用され、本研究のテーマにとって興味深い事案である。 次に、ヨーロッパにおける契約法の自律的規範と他律的規範の関係に関連して、EC司法裁判所において、「消費者」概念に関して論じられた事件に関し、判例研究を公表した。本事件では、当事者が事業者としての性質と消費者としての性質の二重の性質を有する場合、「消費者契約」としての特別規律の適用を認めることができるかが論じられた。結論においては、EC司法裁判所は、消費者性について厳格な立場をとった。契約の性質決定については種々の問題があり、このような「二重目的」の消費者契約の場合の解釈については、当該場面ごとに判断する必要がある。本事件はその一事例として意義を有すると思われる。 さらに、契約における自律的規範と他律的規範が問題となる場面として、事情変更の原則に関し、基礎的な考察を行う論稿の連載を開始した。事情変更の原則の問題においては、当事者の合意を事後的な変更を理由に解消するか、内容を改定することが論じられる。この点に関し、従来の議論を踏まえ、近時の事情変更問題も念頭に研究を試みている。
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