不動産物権変動論はわが国の民法学においてこれまで最も華々しく議論されてきたテーマの一つであるが、そこでは民法176条および177条の母法であるフランス法を比較対象とした研究が数多く行われてきた一方で、ドイツにおける不動産物権変動論を対象とした研究は、最近においてはそれほどなされてはいない。たしかに、不動産物権変動に関する日本法とドイツ法における重要な相違点の一つとして、物権行為と債権行為を明確に峻別しているか否かの違いを挙げることができ、このことが、両国の不動産物権変動システムを比較するに際して大きな障害となっていることは事実である。しかしながら、ドイツ法においても、債権的な請求権に物権的な効力を付与する制度が存在する。すなわち、仮登記制度がそれである。仮登記制度は、物権行為と債権行為を基本的には明確に峻別しているBGB(ドイツ民法典)において異質なものとして存在しているために、それをめぐる諸問題は、ドイツにおける不動産物権変動論を研究する際にも、重要な視点を提示するものであると考えられる。 本年度の研究においては、わが国の不動産物権変動論の展開過程を詳細に跡付け、さらに、ドイツにおける仮登記制度の歴史的発展過程を分析することができた。これらの検討を踏まえて、次年度においては、ドイツの仮登記制度の現代的意義を明らかにした上で、わが国の不動産物権変動論を再構成するための有益な示唆を導き出したいと考えている。なお、この研究成果に関しては、順次、早稲田法学において公表していく予定である。
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