本研究では、ドイツにおける仮登記制度の考察を行うことを通じて、わが国における不動産物権変動論を検討するにあたっての有益な示唆を得ることを主たる目的として設定した上で、検討を進めた。 そこでまず、わが国における不動産物権変動論に関するこれまでの判例および学説の展開過程について検討を行ったところ、判例の態度はすでに確立されており、それに対して学説の状況は今日においてもなお混迷を極めていることが判明した。 続いて、ドイツにおける仮登記制度に関して、その歴史的発展過程、法的特徴、および、今日における機能に着目しつつ研究を進めたところ、ドイツ法上の仮登記は、物権債権峻別論に基づく不動産物権変動システムの問題点を修正する機能を有していると評価することが可能であるという点を指摘することが可能となった。 以上の前提としての研究成果を踏まえた上で、わが国の不動産物権変動論を検討するに際しても、可能な限り登記主義的な把握を試みることの可能性を模索し、さらに、不動産物権変動に関する具体的な諸場面における、登記主義的な見地に基づく解釈論を提示した。 今後の課題としては、各論点に関する個別的な検討を進めていくだけではなく、物権概念と債権概念の理論的深化を図りつつ、とりわけ、債権法理論と不動産物権変動論の接合を試みることが重要になると思われる。不動産物権変動は、多くの場合、取引当事者間の契約関係を前提として成り立っているのであるから、原因行為としての債権契約を検討しなければ、不動産物権変動システムを理解するにあたっても不十分であるということになるであろう。
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