本年度の研究は、土地利用の制御の仕組みとして地役権が活用されている(と評価しうる)事例を調査の対象とした。具体的には、近時、他人所有の土地の通行をめぐる最高裁判所の判決が相次いで下されている。これらの中には、通行地役権に基づく請求が正面から争われたものがあり、他方では、直接的には地役権に基づく通行が問題となっていないものの、実質的には、地役権に基づく通行の事象と交錯しうるものが含まれている。これらの裁判例は、地役権が土地から公道へのアクセスの確保という、私的利益の範疇にはとどまらない公共的な役割をも担いうることを示唆しているように思われる。かかる公共的な機能は、本研究の目的とする土地利用の制御という観点から見ても重要であろう。そこで、本年度は、これらの裁判例における事案の特徴と地役権に関する法的論理の把握に主眼を置くことにした。 その結果、地役権が以上の役割を果たすことについては共通の理解が示されているものの、そのような機能を十分に発揮するための民法上の理論的な基盤が必ずしも明確でないことが明らかとなった。この点は、本研究の研究目的において既に指摘していたが、現実の事案の中にも顕著に現れている。もっとも、上記裁判例には、一定の理論的な進展が見られると評価されるものもある。そこで、これらの裁判例を手がかりにしてさらに理論的な深化を進めていけば、かかる地役権に関する民法上の理論的な基盤もより強固なものになると期待される。 以上のことから、本年度の研究は、上記裁判例の検討とそれをめぐる諸議論の分析に費やされた。その成果の一部が、別記掲載の雑誌論文である。なお、上記裁判例の出現を受けて当初の研究計画を見直したため、研究資金を外国旅費に支出せず、物品費(特に図書資料費とそれらを分析・検討するための用品費)に振り分けたことを付言しておく。
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