本年度の研究目的は、昨年度の研究成果を受け、他人所有の土地(私道)の通行をめぐる民法上の法律関係の理論的な側面を分析することを通じて、土地利用の制御における地役権の意義を探ることであった。具体的には、通行地役権に基づく私道の通行が妨害された事例に関する最判平成17年3月29目判時1895号56頁と、建築基準法上の私道の通行が妨害された事例に関する最判平成9年12月18日民集51巻10号4241頁・最判平成12年1月27日判時1703号131頁とを比較し、両者の論理の違いとそのことによる地域のまちづくり(居住・生活環境など)への影響を分析した。 その結果、以下の点が明らかとなった。(1)前掲最判平成17年は、通行地役権に基づく妨害排除を認めるにあたって、通行地役権者の実際の通行に具体的な支障が生じているかどうかよりも、地役権設定の合意内容や当該私道の道路としての明確な機能を重視しており、私道の通行妨害の排除にとって有用な要件設定をしている。(2)これに対して、前掲最判平成9年・平成12年は建築基準法上の私道の通行妨害の排除を求める私法上の権利を認めたものの、その要件は、建築基準法上の私道がまちづくりで果たすべき重要な目的を十分に考慮していない。(3)したがって、まちづくりにおける道路の重要性という観点からは、上記(2)の要件設定が見直されるべきである。(4)他方、建築基準法上の私道の通行妨害が問題となる事例では、当該私道について通行地役権の(黙示的)設定があったと評価しうる状況も見られるから、通行地役権設定の解釈論をさらに工夫することにより、この問題を通行地役権の枠組みで捉え、前掲最判平成17年の論理に沿って解決する方向も模索されるべきである。 以上の研究成果の一部は、別記の研究発表で公表された他、今後さらに分析を進め、総合的な形での公表を予定している。
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